昔から「鉄瓶で沸かしたお湯は美味しい」と言われます。
それは鉄分が溶け出すことで水が柔らかな味になることにくわえ、鉄瓶の内側に、水道水に含まれるカルキが吸着されるからなのです。
よく使いこまれた鉄瓶の内側を見ると、カルキの湯あかで白くなっています。
白い湯あかのついた鉄瓶のお湯は濁りにくく、味わいもまろやかです。
おいしいお茶をいただくために
岩鋳の伝統工芸士がつくる鉄瓶は、外側には天然うるしの焼付塗装をほどこし、内側には伝統技法の釜焼仕上げで酸化被膜をつくっています。この皮膜はサビ止めになり、湯の中には身体が吸収しやすい二価鉄を多く含んだ鉄分が溶け出します。使い初めのころには内側に赤い斑点などの模様が出ることがありますが、これは鉄瓶がまだ若い証拠。お湯を沸かして使ううちに、水道水のカルキで内側が白くなっていきます。毎日使えば、早ければ1年から1年半ほどで白い湯あかがついてきます。お茶の味をまろやかにするのはもちろんですが、割り水に使うとお酒が甘くなると話すお客さまも。白い湯あかがつくまで鉄瓶を育て上げたら、まずは白湯でお試しを。味の違いにきっと驚くはずです。
慣れ親しんだ湯の味をいつまでも
結婚して家を離れるお嬢さまに、家族で長年愛用していた南部鉄瓶を嫁入り道具としてもたせたというご夫婦がいらっしゃいました。嫁ぎ先でも小さい頃から慣れ親しんだ鉄瓶で美味しいお茶を飲んでほしいという親の思いが伝わってくるようです。このように鉄瓶は、世代を超えて受け継がれていく財産にもなりうる道具です。
初めて南部鉄瓶を使用する際には「ならし」という作業を行います。まず本体を軽くすすいだあと、水を八分目まで入れて中火で沸騰させ、お湯を捨てます。これを2~3回繰り返す事で、お湯が透明かつまろやかになっていきます。使用後、鉄瓶がまだ暑いうちにかたく絞ったふきんで表面を軽く拭きます。続けていく事で、鉄瓶独特の艶が生まれてきます。
伝統製法「焼型」でひとつひとつ創り上げられる鉄瓶。代表的なアラレ模様や亀甲模様など表面には独特の装飾が施され、使い込むうちに風合いが変化していきます。この鋳肌の変化もまた鉄瓶愛用者の楽しみのひとつです。